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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)16号 判決

一、原告が登録第四七八九七六号実用新案「紫外線殺菌器」の権利者であるところ、被告から原告主張の実用新案登録無効審判の請求をした結果、原告主張の日に右実用新案の登録を無効にする旨の審決があり、その謄本が原告主張の日原告に送達されたことおよび原告の右実用新案の考案の要旨およびその登録を無効とすべきものとした右審決の理由がいずれも原告主張のとおりであることについては、当事者間に争がない。

二、本件審判は、実用新案法施行法第二一条第二項の規定により、なお従前の例によつて審理され、したがつてこれについて旧実用新案法第二二条第二項の適用があることはいうまでもない。原告は、本件審判は同条項に違反し、利害関係人でない被告の請求にかゝるものであつて、これにもとづいてなされた本件審決は違法である、と主張するので、まずこの点について考える。

原告は、被告が本件登録実用新案の殺菌器と同一構造の紫外線殺菌器を製作販売して、原告の右実用新案権を侵害している、と主張して、その侵害行為を止むべきことを要求し、右要求をつらぬくために民事上、刑事上の手段に訴えていることは、本訴において原告自ら主張しているところであるから、被告がその業務行為について原告から本件登録実用新案権をもつて対抗されているものであることは明らかである。かゝる地位にある被告は、原告を相手どつて右実用新案の登録無効の審判を請求するにつき正当の利益を有するものであつて、旧実用新案法第二二条第二項にいう利害関係人に該当するといわなくてはならない。

原告は、被告を代理する弁理士が特許庁の審決の効力を否定するような発言をしたということを理由として、被告は前記の利害関係人たる資格がない、と主張するが、およそ審判請求人たることの資格要件の有無のごときは、客観的に当該請求人の実体関係について判断すべきであつて、たまたま代理人がその事件外の場所で表明した見解によつて影響を受けるようなことはない、とするのが相当である。ことに、原告の主張する被告代理人が「特許庁の審決なんかなんらの効力がない。」といつたということは、成立に争のない甲第二号証(原告から被告代理人にあてた昭和三四年一〇月二四日附通達書)にその旨の記載があるが、仮にそのような事実があつたとしても、はたしてその文字どおりの真意をもつていわれたかどうかは、本件における同じ被告代理人の主張と照し合わせて、はなはだ疑わしく、もしそれが右主張のとおり、初審の審決に対しては当時抗告審判を請求することができ、抗告審判の審決に対しても出訴の方法がある等、不服申立のみちがあるので、その審決があつたというだけでは確定的な効力がない、ということをいつたにすぎない、とすれば、まさにそのとおりであり、なおさらこれをもつて被告の本件審判請求人たる資格を否定すべき理由はない。

被告の請求にもとづいてした本件審決は、その点においてなんらの違法はないといわなくてはならない。

三、原告は、本件審決が本件実用新案説明書第三図に示された電気回路図は説明書記載の作用効果を奏するものでなく、仮にその結線を正したとしても、回路構成が不明瞭であるとしたことは、事実誤認である、と主張する。

成立に争のない甲第五号証(本件実用新案公報)によれば、本件実用新案の構造における蛍光灯および殺菌灯に接続される電気回路配線図を示すとされた第三図は別紙図面表示の第三図のとおりであつて、右図面によれば、殺菌灯3の両極は電気回路に挿入されていて、その回路が完全にできているが、蛍光灯4は両極の一方のみが回路に接続され、他方は電気回路から独立遊離していることが明らかであるから、はたして右図示のとおりの配線であつたとすれば、蛍光灯4は点灯しえないことに疑いがなく、右説明書に記載されているような効果は期待することができないものと認めざるを得ない。原告は右配線図に安定器を表わしていないことを弁解しているが、蛍光灯に安定器をそなえることは常識であり、配線図にこれを省略して記載することも、しばしばみられるところであるから、本件の第三図にそれが示してないことは、あえてあやしむに足りないものというべく、本件審決もなんらそのことをとがめているのではないこと、その文詞自体に徴して明白である。

本件第三図が正規の接続図として欠陥のあることは、右に認定したとおりである。しかし、元来本件構造における電気回路はきわめて簡単であつて、第三図の配線図のごときは、むしろ全然これを欠いていても本件構造の理解になんら困難のない程度のものである。したがつて、前記蛍光灯の独立遊離した一方の極が回路に接続さるべきことは、前記甲第三号証の説明書本文に「扉を閉めれば扉の縁枠にて開閉器5を撥条6の作用に抗して内方に押圧し殺菌灯の回路を閉ぢ同時に蛍光灯4の回路を開くようにし」と記載されていることなどから十分推理できることであるから、前記第三図の電気回路はそれ自体理解しがたい点はあつても、これをもつて本件考案の要旨を判断する上において重要な障害となるものではなく、本件考案が説明書に記載されているように、紫外線殺菌灯は扉の閉されたときに点灯し、開いたときに消灯し、蛍光灯は扉の閉されたときに消灯し、開いたときに点灯するという作用効果を有することを否定することは、相当でない。

四、次に、原告は、審決がその引用した甲第二号証(本件乙第三号証)の公報と甲第四号証(本件乙第五号証)の意見書との各記載によつて、本件考案は当業者の容易にできるものと認めたことをもつて、違法の判断であると主張する。

成立に争のない乙第三号証によれば、本件審決に引用された前記実用新案公報は、本件実用新案の登録出願前の昭和二六年四月三〇日に特許庁で発行されたものであつて、食品保存装置用殺菌および照明灯装架装置に関する考案か記載されており、これによれば、該装置は、殺菌灯と照明灯とを単一体装置として家庭用電気冷蔵庫等の内部に装架するものであつて、殺菌灯は常時点灯され、照明灯は扉が開いているときにのみ点灯し、扉を閉鎖すれば、扉の縁か開閉器の推杆を圧迫して回路を断ち、これを消灯させるような電気回路をそなえていることが明らかである。

また、成立に争のない乙第五号証によれば、審決が甲第四号証として引用している意見書は、昭和一四年特許願第一五〇二六号食品保存装置に関する特許出願事件において昭和一六年二月二五日に右出願代理人が当時の特許局審査官に提出した意見書であつて、右意見書には「本願ノモノハ冷蔵機其他ノ食品保存装置ノ冷蔵室内に於テ殺菌灯ヲ照明灯ト共ニ一単位トシテ装架スルニ適セル装置ニシテ、……冷蔵庫ノ扉ノ閉鎖時ニ自動的ニ照明灯ヲ電源ヨリ切離セシメ扉ノ啓開時ニ該灯ヲ自動的ニ電源ニ接続セシムヘク配設セル開閉器装置ヲ利用シテ扉ノ閉鎖時ニノミ殺菌灯ヲ附勢セシメ扉ノ啓開時ニハ殺菌灯ヲ消灯セシメテ人ノ肉眼ニ有害ナル放射線カ射入スル危険無カラシメタルノ特殊新規ナル効果ヲ奏シタルモノナリ」と記載されていることを認めることができる。

原告は、右意見書は公知でないと主張するが、右意見書は前記本件乙第三号証の実用新案が当初特許として出願された当時に、これについて提出された意見書であることは、成立に争のない甲第一号証および弁論の全趣旨から明らかなところというべく、したがつて右意見書も前記実用新案につき出願公告のあつた時以後特許庁において公衆の閲覧に供されたものであることは、当裁判所に顕著な事実であるから(旧実用新案法第二六条の準用する旧特許法第三〇条参照)、右意見書をもつて公知のものとするになんらの妨げがない。

さて、本件実用新案の構成要件の第一点は「扉1、1´を具えた器具類収容戸棚2内に紫外線殺菌灯3と蛍光灯4とを装置し」たことであるが、前記乙第三号証の公報に記載されたものは、扉を有する食品保存装置内に殺菌灯と照明灯とを設けたものであり、その収納物に器具と食品との差異があつても、両者共に殺菌灯と照明灯とを具有することには変りがないから、前者の要旨とするところの第一点は後者に開示されているといわざるをえない。

次に、本件実用新案の構成要件の第二点は「該両灯と電源とを接続する電気回路中に殺菌灯と蛍光灯との回路を交互に切換える自動開閉器5を設け」たことであるが、前記乙第五号証の意見書には、扉の閉鎖時に自動的に照明灯を電源より切り離し、扉の啓開時には該灯を自動的に電源に接続するよう設けた開閉器を利用して扉の閉鎖時にのみ殺菌灯を附勢し、扉の啓開時には殺菌灯を消灯させる装置が記載されているから、本件実用新案の右第二の構成要件と全く同じことが右意見書に開示されているといわなくてはならない。

最後に、本件実用新案の第三の構成要件である「之(開閉器)を扉1が圧着する戸棚の縁枠適所に装置してなる紫外線殺菌器の構造」である点も、前記乙第三号証に記載されている装置は、扉の縁が開閉器の推杆を圧迫して開閉器を作動させるものであるから、該開閉器が戸棚の縁枠適所に設けられてあることは、必然的に推理できることであるので、これまた該実用新案公報に開示されているものということができる。

してみれば、本件実用新案の構成要件とするところは、すべて公知の乙第三号証および同第五号証に開示されてあるものというべく、これをもつて旧実用新案法第一条にいう新規な考案をなしたものとは、とうてい認めることができない。

五、原告は、本件乙第三号証に示された考案は食品保存装置用殺菌および照明灯装架装置にかゝるものであり、照明灯のみが自動的に点滅し、殺菌灯には別個の手動開閉器が設けられたものであつて、これと単なる意見書にすぎない乙第五号証中に偶然見出された事項とをつぎはぎして、器具の殺菌、照明を目的とした本件実用新案の新規な構造を否定した本件審決は、旧実用新案法第一条の解釈を誤つたものと主張する。しかし、器具の殺菌と照明とを目的とした本件実用新案が食品の殺菌と証明とを目的とした乙第三号証の実用新案と、その殺菌、照明の目的を異にするとしても、前者は紫外線殺菌器の構造に関する考案であつて、特に器具を殺菌し、かつ照明するための特定構造の考案を含んでおらず、その技術内容は蛍光灯と殺菌灯との切換を扉の開閉によつて行うことに尽きること、本件考案の要旨として当事者間に争のない事項に徴して明らかであるから、これを後者の技術内容と比較することに、なんらの不当はない。そして、乙第五号証の意見書は、乙第三号証の実用新案が当初特許として出願されたときに提出されたものであつて、そこに記載された技術内容は後者のそれと不可分一体の関係にあるものというべきであるから、右両者を綜合して本件実用新案の登録要件をそなえているかどうかを判断することが、原告のいうように各別に記載されてある事項をつぎはぎしたものということはできない。

なお、前記乙第三号証および同第五号証は単なる作用効果を記載したにすぎないものではなく、特定構造を開示したものであることは、前示認定によつて明白なところであるから、これをもつて、本件実用新案の構造と比較することになんらの不当はなく、また原告主張の作用効果は同一で構造が異なる他の登録例の存在する事実も、前示判断をくつがえすに足りないといわなくてはならな。い。

六、本件審決が本件登録実用新案をもつて旧実用新案法第一条にいう新規な考案を構成しないものであり、同法第一六条第一項第一号により、その登録を無効とすべきものとした判断については、なんらの違法がないというべきである。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

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